外国語教育、国語教育、文化人類学など各分野の専門家からのお話にまつわるコラムをご紹介します!
小柴裕子
私事ではあるが、2022年4月より宮崎大学に着任した。宮崎には旅行ですら来たことがなく、知っている人もいない。今まで全く馴染みがなく、自分とは関係がない場所だと思っていたが、ひょんなご縁でいきなり宮崎県人となったわけである。 宮崎に初めて来た時、今まで当たり前だと思っていたものがないことに驚いた。例えば、新幹線がない。地下鉄がない。東急ハンズはあるが、LOFTもないのである。私にとって、ないないの連続の日々が始まった。
西山教行
子どもの頃、近くの公園には毎週のように紙芝居のおじさんがやってきていた。私は東京の下町に住んでいたことから、数少ない紙芝居師が活躍していた。彼らは子どもたちに小さな夢と駄菓子を売る芸人だったが、高齢化とともに姿を消してゆき、小学校の高学年の頃には、もうその姿を見ることはなかった。記憶の底に眠る紙芝居はどこかぼんやりとした色彩に包まれており、教育的効果とは無縁の子どもの遊びが拡がる世界だった。
入江成治
小学生だった私の密かな娯楽は、トランジスタラジオを寝床に持ち込み、片耳イヤホンでNHK第一放送の番組を聴くことだった。日曜日にTV放映される『ポパイ』が午後8時に終わると、否応なく寝床に入ることが当家の掟だったが、オリーブの甲高い声を散々聞かされた後にすぐ寝つけるはずもなく、「文芸劇場」という45分間のラジオドラマを聴いた。裏窓から見える男女の物語や、幾重にも紡ぎ出される人生の不条理に耳をそばだてて、ますます目は冴え、放送終了を知らせる午前0時の『君が代』が流れるのを何度聴いたことだろう。とりわけ心奪われたのは、泉鏡花が28歳の時に書いた小説『高野聖』(1900年)を脚色したドラマであった。その中心は、若狭へ帰省する「私」が車中で偶然知り合い、同宿することになった高野山の旅僧から聴かされる飛騨山中の怪異体験である。
和崎春日
ヤシ酒が人びとを結びつけ幸をもたらす、ワザキは絶倫だーカメルーン‐バムン社会 中部アフリカ‐カメルーン‐バムン王国の民話、伝承には、王と民の豊饒のチカラを示すものが多い。王は、ディヴァイン‐キングシップ、神なる王権の頂上に位置し、祖先界の聖なるチカラ、豊穣を現世にもたらし、あらゆる幸と福の源となる、と謳われる。
胡屋武志
2020年に劇場公開されたアリ・アスター監督のホラー映画作品『ミッドサマー』は、現代の北欧・ゲルマン神話の受容や表象を考える上で興味深い内容を持つ。主な舞台は、スウェーデンの離村ホルガである。90年に一度、夏至に開催される9日間の祝祭に数人のアメリカ人大学生らがスウェーデン人留学生の誘いで参加する。彼らは、白夜の穏やかな陽光と豊かな緑の中で行われる猟奇的な儀式にいつしか我知らず巻き込まれている。祝祭の中で、世界樹ユグドラシルを彷彿させる枯れた樹木は万物に繋がっている。ルーン文字を解読する者は近親婚で生まれた村人である。要所に入り込む舞踊と食事のシーンは朗らかでありながら、常に不気味さが漂う。作品全体には、北欧・ゲルマン神話の自然神崇拝の秘教的な雰囲気の中に、生と死と性が混在したペイガニズムのカルトな猟奇性が際立っている。
松井真之介
神は人々の堕落を見て人間を造ったことを後悔し、彼らを滅ぼそうとし大洪水を起こした。しかし神はその前に、正しく生きたノアに方舟を作らせ、彼の家族や周りの動物だけを生き延びさせるように仕向けた。彼らの乗った方舟は大洪水を耐え、東方のアララト山に到着し、彼らが新しく人類の祖先となった(ノアの方舟)。