世界に広がるkamishibaï

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 子どもの頃、近くの公園には毎週のように紙芝居のおじさんがやってきていた。私は東京の下町に住んでいたことから、数少ない紙芝居師が活躍していた。彼らは子どもたちに小さな夢と駄菓子を売る芸人だったが、高齢化とともに姿を消してゆき、小学校の高学年の頃には、もうその姿を見ることはなかった。記憶の底に眠る紙芝居はどこかぼんやりとした色彩に包まれており、教育的効果とは無縁の子どもの遊びが拡がる世界だった。

 ところが今では紙芝居はkamishibaïとしてフランスの教育にまで取り入れられ、移民の子どもたちへの言語教育で高い評価を獲得している。パリのある教育支援団体は移民の子どもたちに向けた紙芝居コンテストを実施している。ひとつの同じ話を題材として、クラスで共に学ぶ、様々な言語や文化を持つ子どもたちが、それぞれの言語や文化を駆使して提供し、紙芝居を制作したのである。そこには言語だけではなく、絵画の作画能力も組み込まれ、フランス語と出身言語の複言語能力を発揮した発表を繰り広げたようだ。

 kamishibaïは子どもたちの複言語・複文化能力を見事に組み込み、学校という単一言語の場で評価された。これまで日本の教育は国外の思想や実践から着想を得たものが多い。その中にあって、日本の大衆的な子ども文化は、はからずも思いもよらぬ形で最新の教育思想と結びつき、ヨーロッパで開花している。

西山教行(京都大学、フランス語教育)

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