2020年に劇場公開されたアリ・アスター監督のホラー映画作品『ミッドサマー』は、現代の北欧・ゲルマン神話の受容や表象を考える上で興味深い内容を持つ。主な舞台は、スウェーデンの離村ホルガである。90年に一度、夏至に開催される9日間の祝祭に数人のアメリカ人大学生らがスウェーデン人留学生の誘いで参加する。彼らは、白夜の穏やかな陽光と豊かな緑の中で行われる猟奇的な儀式にいつしか我知らず巻き込まれている。祝祭の中で、世界樹ユグドラシルを彷彿させる枯れた樹木は万物に繋がっている。ルーン文字を解読する者は近親婚で生まれた村人である。要所に入り込む舞踊と食事のシーンは朗らかでありながら、常に不気味さが漂う。作品全体には、北欧・ゲルマン神話の自然神崇拝の秘教的な雰囲気の中に、生と死と性が混在したペイガニズムのカルトな猟奇性が際立っている。